だから現実逃避と憧れから同人活動に踏み出したのは当然だったと思う。
もう30歳になる。悩みも無いが、楽しみもない。学生の頃になんとなく思い描いていた人生とは違った。
今までは「人生なんてそんなものだ」と言い訳して納得していたが、いざ20代を通り過ぎようという時になってどうしようもない焦りのような、劣等感とも言える思いに苛まれた。
大体、他人と自分を比べるからいけないのだが、まあそれは一旦置いといて。なるようになるさ、という希望とか余裕を持てなくなってしまったのだ。
何かを成し遂げたかった。そして新しい自分へとリブートしたかった。だから結局こうなるのは時間の問題だったんだろうと思うが、そこで私はいよいよ腹を括ってボードゲーム制作に挑戦したのであった。
本当は「Kickstarterをやってみての振り返り記事」的なものに着手しようと思っていたが、それはまた明日やればいい。良い機会だ。今回は同人活動を初めたきっかけを振り返り、ほじくってみよう。
■デジタルゲームを作ろう!
面白みもない人生から脱出してやるぞ、と私は一念発起した。
このままくたびれたおっさんになるのはゴメンだ!
初めはデジタルのインディーゲームを作るつもりだった。
情熱でホカホカしているうちはまだ良かったのだが、しかし、現実に目を向けてみればそれは途方も無い旅路であると気づいた。辿るべき道は地平線の彼方で陽炎のように空と交わり消えている。
単に作るべきモノと要求される専門知識が多いのである。アート、キャラや背景のモデリング、アニメーション、テクスチャ・マテリアル、VFX、ポストプロセス、SFX、BGM、UI、カットシーン、いろんなプログラム、AI……。これらを一人でやりきるのは無理だ。
私はいわゆるゲームプランナーなので、ゲームデザイン、バランシング、それからごくごく簡単なプログラミング以外のことはからっきしである。というかそれらの領分についてすら発展途上であり技能として未熟だ。
さっきまでの勢いはどこへやら、終わりが見えない道程を目の当たりにしてずいぶんと気持ちが萎えた。一体どんなAAAタイトルを作る気なのか、という突っ込みが聞こえる。まずは自分の手が届く範囲でやってみなさいよ、と。一理ある。
でも性分じゃないのだ。どうも短気なのである。しょうがないやつだ。
結局、自分にとってのゴールであり行動原理は承認欲求である。
平たく言えば、「俺はこんな面白いものが作れるぞ!」「わーすごいー!」という他者からの承認を得られなければたちまち死んでしまう脆弱な生き物としてやらせてもらっている。
配分というものもあるだろうけど、基本的には何か形あるものを完成させて、それを他者とシェア出来なければ私にとってクリエイティブは意味を持たないようだ。例えば、ただただ作ることに喜びを覚えるという人もいると思うし、ある側面においては私もそうなんだろうが、成功体験としての区切りが欲しいのだ。それも可能な限り短期に。しょうがないやつだ。
■アナログゲームを作ろう!
~前回までのあらすじ~
"過程よりも結果! 結果がすぐ欲しい! すぐに承認欲求を満たしたい!"
というわけで、デジタルゲームを作るのはまた今度にしよう。もっと気持ちや資金や時間的に豊かになったらやってみればいい。だから代わりにアナログゲームを作ることにした。短期間で成果(完成したプロダクト)を獲得するにはこちらの方が良い。
当時はSanctumのようなCo-opアクションと、Slay the Spireのようなローグライトを作ろうとしていた。
処女作であるJINGIは後者のローグライトが前身となっている。
このローグライトの戦闘部分のミニゲームを抜き出して、ごちゃついていたパラメーター類を削ぎ落とし、アブストラクトゲームにしてみたのがはじめの一歩だった。これがよく出来たクソゲーであった。
確かに駆動するルールがあり、ゲームらしき形にまとまってはいたのだが単純にすごくつまらなかった。
その後、色々とごにょごにょして何とか自分なりに納得行く形にまとめたのである。大変だった。
※この辺はまともに作業や思考についてのログを取っていなかったのと、紐解いても得られる気づきがなさそうなので省略しちゃう。
■クラウドファンディングするぞ!
そんなこんなで、いつしか世界はコロナ禍の真っ只中になっていた。その頃、ゲームを作った後の出版の流れや生産費用など、具体的な実現性について考えを巡らせ始めていた。概ね机上ではあるが、初めてのプロダクト完成に向けて静かな前進を感じ、不安と期待で毎日新鮮な気分で過ごしていた記憶がある。
そんな中、ちょうどゲームマーケットの"LIVE"バージョンがパイロット的に開催され、そこで私はKickstarterでローンチされた同人ゲーム"Dragon Scary-go-round"を目撃した。作者とスタッフがライブ配信でゲームをプレイしていた。
同人ゲームと言えば、日本国内での盛り上がりは大したものだ。正直、ボードゲームはデジタルゲームと比べるとインディーとそうでないタイトルの境目が分かりづらい。いい意味で。デジタルゲームの制作に比べ、素材やら原稿とかの作成に専門性が必要ない(語弊)か、イラストコミッションとかの成熟した売り手が多数いるからだと思う。それにほとんどの場合、生産自体は印刷会社が行うわけだから、外観から感じられるクオリティに分かりやすい差が出にくいというわけなんだと思う。
とにかく、同人ゲームにはすごい活気があって市場的にも一応の成長を見せていて、しかしそれは世界的に見れば超マイナーな閉じた文化であった。Kickstarterはその爆発力を信じていて、同人ゲームをもっとグローバルに出版していくことを勧めているっぽい雰囲気だ。
当時、"Made In Japan"という同人ゲームを海外に推すキャンペーンをやっているということで、プロジェクトローンチしたい同人ゲーム制作者を募っていた。
実績のない貧乏な同人クリエイター(私)にとってはこの上ないチャンスだと感じた。しかもプロジェクトローンチにあたってKickstarterやら講談社のスタッフがサポートしてくれるらしいとのこと。気軽にメッセージ送ってね! という感じだった。私はまんまとこのPRに乗せられ、処女作JINGIの制作費用の一部をクラウドファンディングで集めることにしたのである。
■クラウドファンディングやったぞ!
このような経緯をもって2020年8月22日、私の長く険しいKickstarterキャンペーンが始まったのである。そしてこの度、その挑戦は無事にいったんのゴールを迎えた。これが本当にすごく大変だったのだ。
だから後発の方のために記録を残しておこうと思う。
ぶっちゃけ初見でノー勉手ぶらで挑んでも普通の大人なら何とかなるレベルだ。何よりKickstarterスタッフのフォローが厚い。でも、もし無駄な労力を歓迎しないのであれば、私がハマった失敗を知っておくことは無駄ではないだろう。せっかくの失敗、誰かの役に立てなければもったいない。同人ボードゲームは近年盛り上がっている。きっと私のようにクラウドファンディングを利用してみようと思う人も、今後もっと増えるだろう。
さて、これからKickstarter体験記的な記事をまとめていく。
これは個人的な失敗の軌跡という体裁になるだろう。つまり「Kickstarerガイド完全版」のような大したものでは決して無い。こここうしたら良かったのに、というアドバイスももらえたら嬉しいくらいだ。